「散策」したくなる街・西小山

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西小山駅

品川区と目黒区にまたがる地域、西小山。東急目黒線で目黒から3駅で来られるこのエリアに今回はスポットを当てていきます。(2020.2.5公開、2023.4.20更新)

    「古くからある小さくて懐かしい商店街、かつての花街の名残がある桜並木の立会川道路、秋はお神輿でにぎわう小山八幡神社などがあります。ちなみにこの数年で、品川区側には個性的なお店が次々にオープンしているんですよ」

    そう西小山の魅力を教えてくれたのは「フリーペーパー24580(ニシコヤマ)」の制作に携わっているカメラマン・木村雅章さん。「西小山在住歴は15年くらい」なのだそう。

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    カメラマン・木村雅章さん。後ろは小山八幡神社
  1. フリーペーパー24580(ニシコヤマ)って?

  2. 木村さんが制作に携わる「24580(ニシコヤマ)」は、2009年夏にスタートした自主制作のフリーペーパー。毎号、西小山の人や風景にまつわる物語に焦点を当てた特集を企画しています。

    発行は現在年に1〜2回ペースで、最新号の14号(写真・中央)表紙には、昨年惜しまれながら閉店した「フルーツパーラーたなか」を取り上げました。

    フリーペーパーを制作するメンバーは、たまたま縁があって出会ったという西小山好きの建築家やグラフィックデザイナー、イラストレーターなど。毎号約3000部の制作費はメンバー全員のワリカンで、折り込みや配布も自分たちで行っているのだとか!

    木村さんたちが、西小山に魅力をそこまで感じているのはどうしてなのでしょうか? 初めて西小山を訪ねる人でも半日でバッチリ楽しめる、西小山のおすすめのスポットを教えてもらいました。

  3. 目を引く外観と美しい器を楽しめるギャラリー「Parque(パルケ)」

  4. まず向かったのは、ギャラリー&ショップ「Parque(パルケ)」。なんだか不思議な建物ですが……? 年季の入った看板をよく見てみると「富士フィルム」の文字が。以前は写真館として使われていた建物を改装したため、その名残なんだそう。

    ちなみに、外壁に沿う豊かな植物は、大家さんのご家族によるもの。実はテレビのガーデニングコンテスト番組でも活躍するほどの植栽の達人だったそうで、お留守中も自動で水をまく装置が稼働。植物を守り続けています。

    そんな少し不思議な2階建ての建物で、ギャラリーを営むのは、青木辰徳さん・未来さんのお二人。

    「うつわと、くらしの道具」をテーマに、全国のうつわ作家さん達の手仕事のご紹介や販売、月1回程度のペースで企画展を実施しています。

    「器をはじめ、いろんなものづくりの作家さんの企画展示をされています。展示中は、作家さんご本人もいらっしゃることがよくあって、お話できるのも楽しいんですよね」と木村さん。

    さまざまな色や素材の器は見ているだけで、気持ちが上がります。ちなみに、「Parque(パルケ)」はスペイン語で、「公園」の意味。

    「いろいろな人がふらっと立ち寄ってくれるような場所にしたいな、と思って名づけたんです」と辰徳さんが教えてくれました。そういった思いもあり、光と影のバランスを大切にしたギャラリーになっています。

    そして、やはり器といえば「食」。住居スペースとして使われていた2階には、キッチンもあるため、「食」にまつわる企画も実施しています。

    毎月、行っているのは料理家でties主宰の遠藤千恵さんによる四季折々の素材を使ったお弁当の販売会。写真は、2019年2月に販売されたお弁当です。ふきのとうや海老芋、プチヴェールなど季節の食材が使われています。

    そして、3月には広尾のオーダースイーツ専門店「SWEETCH」と一緒に「小さな檸檬洋菓子店」を開催します。香川県の豊島の無農薬レモンをつかったレモンケーキをはじめ、レモンの焼菓子を楽しめる8日間です(2020年は3月20日〜29日。ただし、月・火曜は定休)。

    日々の暮らしに彩りを与えてくれる一品に出合いに来ては?

    Parque(パルケ)
    ・住所 〒142-0062 東京都品川区小山6-21-20
    ・電話番号 03-6883-4617
    ・営業時間/定休日 12:00~20:00 月曜・火曜定休

  5. 【閉店】イタリアの街角のような楽しみをーー生パスタ専門店「Pastificio Sugino」

  6. ※「Pastificio Sugino」は、2022年5月に閉店しました。新情報はSNS(Instagram)よりご確認ください。

    お腹を満たすおいしいランチを求めて、木村さんと一緒に訪れたのは、2017年12月にオープンした「Pastificio Sugino(パスティフィッチョ・スギノ)」。日本では珍しい、生パスタの専門店です。

    窓の外からは、パスタ生地を伸す「スフォリーナ(パスタをのす役割の職人)」の杉野千里さんの姿が見えます。イタリアのシチリアで生パスタに出会ったことをきっかけに、「イタリアの街角のように出来立ての新鮮な生パスタを、日本でも気軽に、しかも量り売りで買えたらいいな」と思い、同店を立ち上げました。

    この日、5種類のランチセットから選べる中でいただいたのは名物の一つ「タリアテッレボロネーゼ」(1,500円)。

    その味は、本場・ボローニャ仕込み。イタリアの小麦粉と卵の生地を、120センチの木製のし棒で、うすーく伸ばしていきます。機械ではなく木製のし棒を使うことでちょうどよく空気が入り、ソースが絡みやすくなるのだとか。パスタと同じデュラム小麦を使ったパンとサラダがついてきます。

    木村さんも、「ランチで来てもいろんな種類のパスタがあって毎回どれを食べても、おいし過ぎてびっくりする」のだそう。

    もともとはテーラー兼住居として使われていた建物は奥行きが深くなっています。

    持ち帰り用のパスタの販売は、常時3〜4種類ほどを用意。生パスタは、意外にも冷凍でも保存できるそう。家にある食材との良い組み合わせ方も教えてもらえるので、お土産にもぴったりです。

    Pastificio Sugino(パスティフィッチョ・スギノ)
    ・住所 〒142-0062 東京都品川区小山5-22-7
    ・電話番号 03-6426-6477
    ・営業時間/定休日
    月曜〜木曜 11:00〜21:00(L.O.20:30)
    店内イートインは全日11:30〜
    火曜・第1・3水曜定休

  7. ストーリーのあるお酒と出合いをもとめてーー「かがた屋酒店」

  8. お腹が満たされたところで、次に向かったのは、すぐ近くの「かがた屋酒店」。昭和3(1928)年から、西小山で店を構える老舗です。

    特徴は、「日本で作られたお酒の専門店」であること。日本酒はもちろん、焼酎や日本ワイン、和リキュールなどを揃えています。同店の直井一成さんは「おいしいだけじゃなくて、ストーリーやメッセージ性があるお酒を置いているんです」と教えてくれました。

    その一つが、稲とゾウの特徴的なパッケージの「山形正宗 稲造(いなぞう)」(一升瓶=3,200円)。杜氏さんが自ら農業法人を立ち上げ、減農薬栽培をした畑で育てた米を使って作った純米吟醸酒です。ちなみに、「いなぞう」は手掛けた杜氏さんの中学時代のあだ名なんだとか。

    また、冬季限定の「鳳凰美田 いちご」や「桃」(1,500円)も人気の商品。日本酒の酒蔵さんが作った「和リキュール」です。どちらも果肉たっぷりで、さまざまな割り方を楽しめます。

    かがた屋酒店が、現在のように地酒に特化し始めたのは約40年前。当時の酒屋は「何でも売る」スタイルが主流だったため、日本のお酒だけに特化するのはかなりチャレンジングだったそう。現在は、珍しいお酒を求めて、遠方からわざわざ足を運ぶ人も。

    「かがた屋さんは、昔から試飲イベントなどもよくやっていて、レアなお酒を求めて西小山に来る人も多いんですよ。かがた屋さんの通り沿いも新店が増えて盛り上がっています」と木村さん。

    そのほか、初心者向けに日本酒を解説する「カガタヤハイスクール」という講座も定期的に実施。だれもが、気軽にそして深くお酒を楽しめるサポートをしています。

    自分のための一杯はもちろん、大切な誰かへの贈り物として愛されるお酒。約800銘柄も取り扱いがあるので、もし迷ったときは、気軽にスタッフさんに聞いてみましょう。きっと素敵なお酒と出合えますよ。

    かがた屋酒店
    ・住所 〒142-0062 東京都品川区小山5-19-15
    ・電話番号 03-3781-7005
    ・営業時間/定休日 10:00~20:00 水曜定休

  9. 見たことがない野菜と出会うならーー地域の青果店「808plus(ヤオヤプラス)」

  10. 駅の周りにギュッとスポットが集まる西小山。歩いている間にも、さまざまな気になるスポットを目にしました。路地が多いため、1本道に入ると子どもや猫の姿も目に入ります。街歩きにはぴったりです。

    なんだか不思議な装飾のお店も! ここは絵画教室だそう。

    路地を抜けてたどり着いた先は、立会道路。さまざまな店が並びます。ひときわ目を引くのがこちらの地域密着の青果店「808plus(ヤオヤプラス)」です。

    店の外には、ずらりと色とりどりの野菜が並んでいます。よく見ると、あまり見たことがない野菜も……。

    初めて見た「霜降り白菜」

    それもそのはず、ここは店主の秋元康亮(あきもと・やすあき)さんが、「おいしい」と感じた野菜や果物だけを選びぬいて仕入れる八百屋さん。そのため、ちょっと珍しい食材の取り扱いも多いのだとか。

    八百屋の仕事を始めて13年になる秋元さん。もともとは違う地域のお店で働いていたそうですが、縁あってこの西小山でお店を引き継ぎました。

    「珍しくておいしいだけじゃなくて、手に取りやすい値段で販売するようにしています。もっと毎日の食事が楽しめるように」という思いの詰まったお店には、多くの地域の人が訪れます。

    「秋元さんは野菜にエピソードを付けて紹介してくれるところが面白いんです。普通は商品のスペックの話をする方が多いので、小噺(こばなし)が付いてくるっていうのが西小山っぽいなぁと思いますね」と木村さん。

    ちなみに、冬季のおすすめの一つは「焼き芋」(350円)。

    この日は、前日にふかしたシルクスィートをいただきました。いわく、1日置くとさらに甘みが増すのだとか! 一口いただくと、まるでスイーツのよう……。前日のお芋があるかどうかは販売状況によるそうなので、気になったらスタッフさんに尋ねてみましょう。

    ちなみに、808plusが面する立会道路は、春には桜のトンネルになります。しながわ百景にも選ばれた場所。春のお散歩も楽しみたいですね。

    808plus(ヤオヤプラス)
    ・住所 〒142-0062 東京都品川区小山6-7-3
    ・電話番号 03-5498-0439
    ・営業時間/定休日 11:00~20:00

  11. 地域で愛されるお店で、夕飯を食べてーー「丸吉飯店」

  12. 西小山駅周辺を目一杯楽しんだら、最後にお腹を満たして帰りましょう。そんなときにおすすめなのが、駅の改札口正面にある黄色い看板が目印の中華料理店「丸吉(まるきち)飯店」です。

    店の奥で手際よく鍋をふる店長と、笑顔の素敵なママさんで店を切り盛りしています。西小山で店を構えて20年以上になるのだそう。

    夕方18時からの営業に合わせて、学生さんや会社帰りの方、女性の一人客など、さっと食べて行く人が多数。

    注文時には「ニクヤーハンライス(肉野菜イタメと半ライス)」「スタミナハンライス(肉スタミナ炒めと半ライス)」など呪文のような合言葉が飛び交います。

    メニューはどれも、愛情たっぷりサイズ。あえて「半ライス」を頼むのは、そのボリューム感があるからこそ!

    木村さんオススメは閉店後に仕込む「餃子」とプリプリの海老がのった大きなエビがのった「エビ炒飯」です。

    こんがり焼かれた大きめの餃子は皮がカリッ。そして野菜多めで中身がぎゅーっと詰まっていてボリューミー。餃子ともう一品頼むと、大人でもお腹いっぱいに。「ビールをぐいっと飲みたくなってしまうんですよね」と木村さん。

    そのほかのメニューも野菜たっぷりなので、女性1人でも思わず入ってしまいます。

    また、丸吉飯店の「油」のファンも多く、中華鍋でラードたっぷりで炒められたこってり系の炒飯は、まさに西小山の味! これを求めて、週に何度も通う人もいるのだとか。

    「日が暮れて西小山駅に帰ってきて丸吉飯店を見るとほっこりするんです。ママさんは、私の母親と同じくらいの歳のはずなのにお肌ツルツル。あの変わらない美しさの秘訣は、やはり丸吉飯店の中華料理にあるのでしょう。奥のカウンター席から見える店長の鍋さばきも手際良くてずっと眺めちゃいますね」と木村さん。

    地元客で混み合う店内。西小山を楽しんだ最後に、もってこいのお店です。

    丸吉飯店(まるきちはんてん)
    ・住所 東京都品川区小山6-2-1
    ・営業時間/定休日 18:00~22:30 不定休

  13. 歩いてみるだけでも、「西小山らしさ」を感じられる

  14. 今回は、品川区に住所を構えるお店を中心に紹介しましたが、西小山には他にも素敵なお店がたくさんあるそう。

    「西小山には、個性と技術を持ったスペシャリストのお店が多いんだなぁと改めて実感しました。そういうお店がちゃんと地元に住んでいる人を大切に思ってくれているのもいいところだと思うんです」と木村さん。

    「15年ほど、西小山の住んでいて思うのが、西小山の人は優しい人が多いことです。特に生まれた時から西小山に住んでいる地元の方が、外から来た人にもあたたかい。だから、西小山のお店はふらっと1人で入っても店主も常連さんもだいたいよくしてくれますよ」(木村さん)

    今回も、地域密着のお店をいくつも紹介してきましたが、西小山初心者でも入りやすく、あたたかく接してくださるお店ばかりでした。気になるお店をのぞいて、まさに「散策」したくなる街・西小山。まずは気になったお店を見つけて、一度この雰囲気を味わいにいってみるのがおすすめです。

    (撮影・案内:木村雅章 取材・執筆:鬼頭佳代/ノオト)

    ※店舗メニュー及び価格は、2020.2.5公開時の情報です。