撮影カメラマンが選ぶ「もう一度行きたい!品川マイスター店」前編
今回の特集は、品川区在住のカメラマン渡邉茂樹さんによる「もう一度行きたい!品川マイスター店」前編をお届けします。(2020.3.13)
今から10年ほど前のこと、区民の投票などをもとに魅力ある店として選ばれたのが「品川区認定マイスター店」です。この3月にマイスター店を紹介するパンフレットがリニューアルされました。
10年の風雪を耐え抜き、今なお頑張っている100以上のお店を、この冊子のために撮影したのが、私、戸越出身のカメラマン渡邉茂樹です。この特集では私が独断と偏見で選んだ、また行きたい!お店<五反田・小山・戸越・旗の台・中延エリア>をご紹介します。
1. 歴史を受け継ぐオランダあんぱん「ヨシナカベーカリー」
この道はどこへ続くのだろうと思わせる蛇行した道。
かつては目黒不動尊への参詣客の交通の要所であった後地交差点に立つと、斜めに交わる道が、ここは昔ながらの道であることを教えてくれます。
後地交差点から東に向かう蛇行した小さな商店街、京栄会の先に「ヨシナカベーカリー」はあります。
惣菜パンの種類が豊富で、近隣住民から通勤客まで、多くの人々が立ち寄って行きます。
そのなかでも不思議なネーミングのアンパンが「オランダあんぱん」です。
自家製白餡をココア生地で包んだ逸品。店頭に並べば早々に売り切れてしまいます。実はこのパン、長い歴史を経て受け継がれているパンなのです。
今から40年以上前のこと、現在のご主人、吉仲利一さんが修行した十条のパン屋、平和ベーカリーの社長が洋菓子職人でした。社長は当時話題のケーキ、モンブランの上にのっているクリームがとても美味しいので、このクリームをどうにか商品化できないかと考えました。そこから工夫を重ね、白餡をベースに卵とバターを入れて、初代「オランダあんぱん」が産まれました。
オランダという名前は社長が修行した洋菓子店「オランダ屋」からとりました。ヨシナカベーカリーの「オランダあんぱん」は、このパンを受け継いでいるものなのです。その後平和ベーカリーは閉店、今ではヨシナカベーカリーだけがこのオランダあんぱんを作っています。かつての平和ベーカリーのお客さんがどうしてもこのパンを食べたいと訪ねて来たこともあるそうです。
ちなみに、吉仲家は明治時代より代々のこの地で商売をされており、現在三代目が修行中。お店も看板商品も世代を越えて愛されるナカヨシ一家は今日も厨房で手作りパンを作り続けています。
ヨシナカベーカリー 住所:品川区小山2-14-2 電話:03-3781-2628 営業時間:7:00~18:30 定休日:日、祝日 https://www.yoshinakabread.com
2. 炭火で焼き上げる香ばしいうなぎと、厳選された魚介「うなぎ双川」
もうあまり見かけなくなった、持ち帰り専用のうなぎ屋さん。うなぎが庶民の食べ物だった頃の名残が、戸越銀座には残っています。それが「うなぎ双川」です。
我が家においても、特別な日はいつもここで、鰻の蒲焼きを買います。
弾力のある歯ごたえと、香ばしさが秀逸。聞けば、生きているうなぎをお店でさばいて、蒸さずに炭火で焼き上げているそうです。そこに秘伝のタレをかければ、ご飯はとまりません。
この店にはうなぎだけではなく、あさりなどの魚介も置いてあります。どれも扱っている量は多くないのですが、目利きのご主人が選ぶ品々は、どれもアタリ。測り売りのために、店頭には現役のばね測りがぶら下がっています。すぐに値段がわからないドキドキと、食べたときにやっぱり買ってよかったと思わせる品物の確かさが、双川で買い物をする楽しさかもしれません。
私が小学生だった頃と、多分何一つ変わらない姿で、今日も道行く買い物客を温かく迎えてくれます。
うなぎ双川 住所:品川区豊町1-5-5 電話:03-3782-3254 営業時間:13:00~19:00 定休日:火、水
3. 菓子職人時代の技が活きる、シューマイ3兄弟「丸田商店」
巨大なセイロから湧きでる蒸気、その中から現れる様々な種類のシューマイやちまき、三種類のシューマイが楽しめるシューマイ3兄弟は、ボリュームも味も抜群。
この道一筋のシューマイ屋さんと思っていたのですが、実はご主人の田代さんは、元々和菓子職人でした。その後、事業を興すも失敗し、30代で一念発起して始めたのが現在のシューマイ専門店「丸田商店」です。
手先の器用な田代さんは、様々なシューマイを研究し、原点となるポークシューマイを完成。店頭で実演販売して、たちまち人気店となりました。シューマイ3兄弟は、流行歌「だんご3兄弟」がお気に入りだった娘さんからの、「シューマイ3兄弟作って!」の一言から生まれました。
子どもにも親しんでほしいと、五目(白)、かに(赤)、コーン(黄)とカラフルに親しみやすい見た目。どれも美味しいのですが、特に五目シューマイは、ホタテやしいたけが挽き肉と一緒に入って旨みの宝庫。周りにまぶしたもち米の食感とともに、ここでしか味わえない逸品となっています。実はこの五目シューマイ、和菓子職人として作っていたおはぎがヒントになっているそうです。
そして丸田商店のシューマイは、全てオリジナルな上に安い!シューマイ3兄弟は一本240円。
夕方に買い行くと売り切れとなっていることも多いので、早めの来店をオススメします。
丸田商店 住所:品川区西中延2-18-3 電話番号:03-3783-9096 営業時間:8:00~18:00 定休日:日
4. 完熟トマトもさっくり切れる、包丁研ぎ50年の技「清水屋金物店」
料理をするときに、切れない包丁によく悩まされます。家庭用の簡易シャープナーは、使っているうちに刃が鈍角になっていくので、必ずどこかで包丁研ぎに出さなくてはなりません。しかし、根っからのぶきっちょで、怠け者である私は、自分で包丁を研ぐことなど全くやる気なし。
そこに救世主として現れたのが「清水屋金物店」です。いつでも、安い、上手いの三拍子で、私の悩みを吹き飛ばしてくれました。
店の奥にある、隠れ家のような研ぎスペースには、回転式研磨機が待ち構えています。研いでくださるのは、この道50年の三代目のご主人、浅海宏之さん。
「包丁も進化するので、日々研究を重ねています。」と、言いながら、手際よく包丁を研磨機にあてていきます。簡単そうに見えて実は包丁の特性にあわせて角度を変えているそうです。
機械のあとは砥石に当てて手で仕上げていきます。
使ってみれば完熟トマトもスパッ、しかも値段は450円(税込)!※出刃包丁は600円(税込)
包丁の仲卸し業者から注文がくるほどご主人の腕は折り紙つき。当日仕上げにも快く対応してくれます。まさにマイスターです。
金物屋で包丁研ぎなんて、想像もしたことがなかった私、もっと早く知っていればよかったと思わずにはいられませんでした。
清水屋金物店 住所:品川区東中延2-1-19 電話:03-3781-4967 営業時間:8:00~20:00 定休日:水
5. おどろきの鳥料理の豊富さ。唐揚げが絶品の「鳥ふじ」
イチゲンで入ることはまずない、でも知ってしまうとまた行きたくなる、それが「鳥ふじ」です。木造モルタルアパートのような建物の狭い階段を登り、さらに奥へと続く廊下の先に佇むタヌキの置物が入り口。
昭和テイストあふれる店内には、古いながらもよく手入れされたカウンターがあります。
ここのオススメは、なんと言っても鳥の唐揚げ。淡い色の衣にしっかりとした味付け、レモンを絞ってほおばってみれば、ビールがすすむこと間違いなし。見上げれば壁に並ぶ鳥料理の数々、次は何にしようかと、目移りしてしまいます。
店主の加藤征紀さんは地元出身の三代目で、私と同い年のアラフィフ。この不便な場所で、長年にわたりお店を続けてきた自負と謙虚さが笑顔からにじみ出ています。
鳥ふじ 住所:品川区中延5-7-10 富士マーケット2F 電話番号:03-3784-2448 営業時間:17:00~23:00 (L.O.22:30) 定休日:日、月曜の祝日 http://www.torifuji.jp
6. 五反田で90年以上続く老舗「岡崎写真館」
カメラマンが同業者を撮影するのは、とてもやりづらいものです。全部見透かされている気がします。でも「岡崎写真館」の三代目伊與田彰さんは、そんな私のモヤモヤとした気持ちを吹き飛ばす笑顔で迎えてくれました。
壁面を見上げると、これまでに撮影した作品の数々が並び、その中には著名俳優の家族写真もあります。
みんないい笑顔。そこから眼を落とせば昔ながらの大判カメラが!
岡崎写真館では、通常のデジタル一眼レフの撮影とは別に、大判フィルムカメラでの撮影も行っています。撮影するのは二代目のお父様。老舗だからこそなせる技でしょう。カメラもフィルムもとても高価で、写真が特別だった時代の写真には、緊張感があります。撮る方も撮られる方も真剣勝負。だから出来上がった写真はエネルギーに溢れ、何度観ても飽きることがありません。
時代がデジタルになっても、写真館という場所は、現代において特別な写真の魅力を思い出させてくれる舞台です。写真がいつでもどこでも撮れるようになったいまだからこそ、特別な一枚を撮影する体験を、味わってみてはいかがでしょうか。
岡崎写真館 住所:品川区東五反田1-21-9 電話:03-3445-1505 営業時間:9:00~19:00(土は18:00まで) 定休日:日、祝日 https://okazaki-shashinkan.jp
いかがでしたか?昭和テイストに振り切っている感がありますが、楽しんでもらえたでしょうか。区内に住んでいると、近くにあるがゆえに、あまり行く機会も動機もなく、よく知らない店って多いなと感じていました。 今回取材という目的があったからこそ、初対面の客ではなかなか知ることができないことを、お店の方々から教えていただきました。そうしたら、今までとは違う新鮮な目線で街を見ることができたような気がしています。 この特集を通じて、みなさんが「気になる!」と感じるお店に出逢えたら嬉しいです。
<取材・撮影・執筆> 渡邉茂樹/フォトグラファー、通訳案内士 「東京人」「プレジデント」などの雑誌や広報誌にて「ひと」、「まち」、「食」の撮影を中心に活動。しながわ観光協会やケーブルテレビ品川などを通じて地元品川区の商店街の人々の撮影も多く行う。戸越小出身、品川区在住。 【写真展】 「戸越銀座の一人一冊」(2014年) 「戸越界隈の一人一冊 with MOP!」(2018年)
▼今回ご紹介した以外にも、魅力あふれるお店が満載! 「SHINAGAWA My Star」デジタルパンフレット
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※掲載内容は、2020.3.13公開時の情報です。