個性あふれる品揃え 品川区の老舗書店4選
何かとおうちで過ごす時間が増えた昨今。自宅で読書を楽しむかたも多いのではないでしょうか。
写真集を取り揃える書店、街歩き本を中心に集める書店、オカルト専門書店など、品川区には個性的な本と出会える場所がたくさんあるんです。そこで今回は、品川区の本屋さんをご紹介します。それぞれの店主さんのおすすめ本情報と合わせて、ぜひ本選びの参考にしてみてくださいね。(2021.3.5)
1. アート系の写真集を各種取り揃える「九曜書房」(武蔵小山)
武蔵小山駅から徒歩3分ほど、西口商店街にある「九曜書房」。写真家の森山大道さんや荒木経惟さんなど、アート系写真集を中心に取り扱う古書店です。
店内には詩集や戯曲集、マンガ、エッセイ、地方の郷土史など幅広いジャンルの本がぎっしりと並んでいます。お店に入って右側の棚には500円均一コーナーも!何か心を揺さぶる掘り出し物が手に入るかもしれません。
本のほかには、絵画や絵ハガキも。気に入ったデザインのものを探して、おうちに飾って楽しむのもよさそうです。
もともと本が好きだったという店主の加藤隆さん。神田の玉英堂書店で修行を積み、1992年に武蔵小山に九曜書房をオープン。今年で29年目になります。そんな加藤さんにお気に入りの本を伺いました。
無骨なボール紙のスリップケースが印象的なこちらは、写真家・深瀬昌久さんの『鴉(からす)』(蒼穹舎)の初版本。1986年に、限定1000部のみ発行された貴重な写真集です。
カラスをモチーフに撮影された作品の数々は、力強くもどこか寂しさを漂わせ、見る人の心を引きつけます。選んだ理由について「言葉にするのは難しいが、ただひたすらかっこいい」と加藤さん。
ふらっと立ち寄る人からマニアまで、幅広いお客さんが訪れる九曜書房。加藤さんは「文芸から美術専門書まで、興味を持ってもらえるような本を広く取り揃えています。なかには希少で高価なものもありますが、身構えず、まずは本を探す楽しみを味わってもらえれば」と話してくれました。
並ぶ本のジャンルは千差万別。店内には、普段読まない本も思わず手にとってしまうような雰囲気が漂います。新しい世界を開く本に出会えるかもしれません。
九曜書房 ・住所 東京都品川区小山3-2-3 ・電話番号 03-3791-2094 ・営業時間/定休日 12時〜18時(早じまいすることもあり)/月曜・水曜・土曜 ・URL https://twitter.com/kuri1951
2. 昔の記憶を今に伝える「小川書店」(戸越銀座)
戸越銀座駅から徒歩5分ほど、中原街道沿いに店舗を構える「小川書店」。本店は三田にあり、戸越銀座平塚店は1991年にオープンしました。歴史社会学や人文系書籍、現代史を中心に取り扱っています。
店内には歴史書や軍事戦記、乗り物関連書籍、芸能、風俗誌などバラエティ豊かな本が並びます。店内には専門性の高い本が多くありますが、店頭には小説やエッセイなど地元の人にも関心を持ってもらえそうな本を100円で販売するコーナーを設置しているそう。思わぬ掘り出し物が見つかるかもしれません。
また、小川書店では日本全国の出張買い取りも行っています。買い付けの状況によって、さまざまな種類の本が店頭に並ぶこともあるのだとか。娯楽本の蒐集家から本を買い取ったときは、古いマンガや雑誌が店頭に並ぶなど、棚が仕入れ状況を反映するそう。とあるジャンルのコレクターから資料を買い取ったときは、東京から地方まで2トントラックで4往復もしたとのこと!買い付けエピソードには枚挙に暇がありません。
また、小川書店では昔の写真やパンフレットなど、当時の雰囲気を伝える紙資料も多く取り扱っています。学者や外国の方、大学、ミュージアムから、失われた歴史資料を求める問い合わせも多いそう。
店主の田中俊英さんは小川書店の三代目。神保町の南海堂書店で修行し、本屋のノウハウを学んだそう。幼い頃から本に囲まれて育ち、自宅にうず高く積まれた本の山をかき分けながら暮らしたことが印象に残っていると話してくれました。
「元々は本屋になんてまったくなるつもりはなく、むしろ家業への反動で嫌っていました。ですが、あらためて仕事を見つめ直した時、次の世代に脈々と受け継がれていく本には未来があると思い、大学3年のときに家業を継ぐことを決めたんです。訪れた人がここで自分のルーツを知れるような、唯一無二の価値を提供できる本屋を目指して今もお店を続けています」と田中さん。
田中さんがおすすめしてくれたのは、現在の東急池上線の前身となる、池上電気鉄道の沿線案内パンフレット。書体から、大正時代に作られたものと推測されます。
パンフレットを見ると、昔は大崎広小路駅と戸越銀座駅のあいだに「桐ケ谷」という駅があったことや、旗の台駅が「旗ヶ岡」駅だったことなどに気づき、知らなかった歴史にはっとしました。
田中さんは「当時の歴史を伝える紙資料はとても貴重なもの。お年を召した方が歴史資料に触れて当時の記憶を思い出すきっかけになれたのなら、こんなにうれしいことはないです。しかし、パンフレットや写真などの紙資料は書籍に比べて軽んじられがち。もし整理に困るような紙資料があれば、捨てる前にぜひ当店にご相談ください」と話してくれました。
昔の記憶を現代へ脈々とつなげる橋渡しの役割を担う小川書店。もし処分に悩んでいる資料や書籍があれば、相談してみるといいかもしれません。
小川書店 ・住所 東京都品川区平塚3-2-17-104 ・電話番号 03-5702-3845 ・営業時間/定休日 11時〜20時/不定休 ・URL http://www.ogawashoten.com/
3. オカルト系の書籍なら品川区随一 「八幡書店」(五反田)
戸越銀座駅から徒歩10分ほど、桐ケ谷交差点の近くにお店を構える「八幡書店」。ビルの5階に入居しており、少し入りづらい雰囲気が漂います。
八幡書店は、東洋医学や武道、整体、霊術、修験道などスピリチュアル・オカルト分野書籍の出版・販売を中心に行っています。また、同社の「今日の話題社」部門では精神世界や健康などの書籍を、中央書籍販売では古本も扱い、高円寺には同名の古書店を出店しています。
八幡書店は、古史古伝や神道関連書籍の復刻出版で広く知られています。「過去の思想を知るためにはやはり原典をあたるべき」という原典主義を柱に、少部数発行のニッチな書籍を復刻。新しい読者に届けるための橋渡しをしています。社内には、全国から買い取った本が所狭しと並んでいました。
入り口に設置された古書コーナーでは、訪れた人が自由に本を選ぶことができます。棚には古代文化や陰陽道など、普段見慣れないタイトルが並び興味をそそられます。
八幡書店代表の武田崇元さんは、なんとオカルト雑誌『ムー』の創設に関わったひとりです。全身黒づくめのスタイルが印象的。1976年に刊行された『復刊・地球ロマン』の編集長としても活躍し、1980年代オカルトブームの火付け役として知られています。
「今でこそオカルトという言葉はポピュラーになりましたが、昔はそもそもオカルトという概念はなく、幻想文学や耽美主義を基調とした『オカルティズム』として、あくまで文芸評論など美学的な趣向のものでした。しかしユイスマンスやブルトンなどには、より生々しい精神世界への回路が秘められていて、そこからずぶずぶとオカルト世界にのめり込んでいったんです」と武田さん。
武田さんが名著とおすすめするのは、1974年に刊行された『魔法入門』(W・Eバトラー/角川文庫)。西洋世界の魔法とはどういうものか詳しく解説された貴重な本です。巻末に用語集もまとめられており、これから西洋魔術を学びたい人にはうってつけですね。
もうひとつおすすめしてもらったのは、剣術、杖術、体術を写真付きで詳しく解説した1975年刊行の『合気道 剣・杖・体術の理合 全五巻』(斉藤守弘/港リサーチ)です。当時としては実験的な試みだった8ミリフィルムでの撮影写真も使われたとても貴重な資料。日本語に加えて英語でも説明がなされていて、今でも実用的な合気道入門書です。
武田さんは「取り扱っているジャンルが多岐に渡り混乱するかもしれませんが、オカルト関係に興味がある人ならきっと満足する品揃えです。知りたいジャンルのベストな本を紹介できるので、気軽にお声がけください」と話してくれました。
ウェブサイトでは目録を公開しているので、興味を持った方はぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。オカルト分野が好きな人はきっと満足できるはず。
八幡書店 ・住所 東京都品川区平塚2-1‐16 KKビル5F ・電話番号 03-3785-0881 ・営業時間/定休日 10時30分〜18時/土曜・日曜・祝日(訪れる際は事前に要連絡) ・URL https://www.hachiman.com/
4. 街歩きの本が集まる現代の宿場「KAIDO books & coffee」(新馬場)
京急線新馬場駅から徒歩5分ほど、旧東海道の宿場町の面影を残す北品川商店街にお店を構えるのは「KAIDO books & coffee」。品川のまちを盛り上げたいという店主の佐藤亮太さんの想いが形となり、2015年にオープンしました。
お店は2階建てで、1階は食事やドリンクを注文できるカウンターキッチン、2階はワークショップや勉強会にも使えるテーブル席を用意しています。店内の本棚に並ぶのは、国内外問わず、旅やまち歩き、都市と建築、絵本などさまざまなジャンルの本が約1万冊。ドリンクを飲みながら本を読め、気に入った本があれば購入もできますよ。
実はKAIDO books & coffeeに置かれた本の多くは、お店すぐ近くの「街道文庫」(街道歩き相談承り処)から提供されています。その名の通り、日本橋を起点に伸びる東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道の5つを指した五街道をはじめ、全国の街道を知るために役立つ書籍がたくさん用意されています。
街道本を収集し「街道文庫」(街道歩き相談承り処)を運営する田中義巳さんは、今年で70歳。31歳のときに本を集めはじめ、その数は約5万冊にもなるそう。現在では、メディアへ資料提供することもあるのだとか。
街道に興味をもった理由は、もともと好きだったマラソン。これまでに東海道だけで30回以上走破したそう。「1983年末に東京〜京都までの国道1号線を走るチャレンジをしたのがきっかけです。どうせなら、新しく整備された国道よりも昔からある道のほうが面白いんじゃないかと。街道を走り続けるうちに、どんどん街道の魅力に引き込まれていきました」と田中さん。
マラソンに並々ならぬ情熱をもち、1997年には東海道五十三次など街道を走る旅の入門書籍『ジャーニーランのすすめ-東海道五十三次の走り方』を制作するなど、マラソンと街道についても精力的に発信しています。過去には通常のトライアスロンの4倍、約904kmを走る「ハンガリー4倍トライアスロン」を2度完走したというから驚きです。
そんな田中さんにおすすめの本を伺いました。こちらは『象の旅 長崎から江戸へ』(石坂昌三/新潮社)。江戸時代に8代将軍・徳川吉宗に献上品として外国からゾウが贈られ、長崎から東海道を通って江戸へと向かう長い道のりを記録した本です。「ゾウを中心に東海道の旅を味わうことができるので、あまり街道に馴染みがない人でも楽しんで読める本」と田中さん。
本格的に街道を歩くのなら、今井金吾さんの『今昔東海道独案内』、『今昔中山道独案内』、『今昔三道中独案内』(JTB)など、街道の詳細な解説が載っている本がおすすめだそう。
KAIDO books & coffeeからほど近くにある、田中さんが運営する「街道文庫」にもお邪魔しました。10坪の店内には3万冊ほどの本がみっちり並び、人ひとり通るのにも苦労するほど。田中さんのまち歩きへの情熱がこもっています。
田中さんは「何気ない道に見えても歴史や成り立ちを学ぶことで、まち歩きはより楽しくなる。自身の遊びのステージを広げる意味でも、本で知識を取り入れるのはとても大切なこと。もしまち歩きで困ったことがあれば、ぜひ相談してください」と微笑みます。
新型コロナウイルス感染症の影響による外出自粛期間に限り、所蔵の本を無料で貸し出しているそう。まち歩きをもっと楽しみたいときは、田中さんのお力を借りると世界が広がりそうです。
KAIDO books & coffee ・住所 東京都品川区北品川2-3-7丸屋ビル1F ・電話番号 03-6433-0906 ・営業時間/定休日 月曜日 10:30~17:00 水~金曜日 10:30~20:00 土・日曜日 10:30~19:00 ・URL http://kaido.tokyo/
5. まとめ
まち歩きからオカルトまで、店主の「好き」があふれた個性豊かな品川区の本屋さんを4店舗紹介しました。普段何気なく前を通り過ぎてしまっていた本屋さんでも、じっくり話を聞いてみるとさまざまな発見がありました。
書店の魅力は、普段は目にしないような思いがけない本と出会えること。棚に並ぶとりどりの本は、きっと目が覚める新鮮な刺激を与えてくれることでしょう。読む本に困ったらぜひ本屋さんの扉を開いてみてくださいね。
※記事中の店舗情報は2021年2月中旬時点の内容です。店舗の営業時間、提供内容は変更となる場合がありますのでご了承ください。 (2021.3.5)
(取材:神田 匠 編集:鬼頭佳代/ノオト)