読書でトリップ「品川ゆかりの本」特集
今年のゴールデンウィークは、お家でゆっくり本を読んでみませんか?
今回は、品川が舞台のおすすめ作品を品川区立図書館の職員さんにうかがいました。本を読むことで、街がより魅力的に感じられるようになりますよ。(2020.4.30)
1. 『こんぴら狗(いぬ)』(今井恭子・いぬんこ/くもん出版)
江戸時代後期の文政3(1820)年を舞台にした児童文学です。当時は、三重県の伊勢神宮を参拝する伊勢参りと香川県の金刀比羅宮(ことひらぐう)を参拝する「こんぴら参り」が庶民にとって生涯の夢でした。
しかし、庶民が長旅に出ることはなかなかできなかったので、代わりに飼い犬をお参りに出す習慣ができました。このように、こんぴら参りをする犬を「こんぴら狗」と呼んだのです。
この本は、犬のムツキが、飼い主である線香問屋の娘・弥生の治癒祈願のために、江戸から讃岐にこんぴら狗としてお参りに行く物語です。往復1340キロにも及ぶ旅。盲目の少年とその母親などさまざまな人物と出会い、別れを経験する中で起こる、温かな交流と成長を描いています。
著者の今井恭子さんが3年以上の歳月をかけて取材をし、書き上げた同作。「第58回日本児童文学者協会賞」などを受賞したほか、「第64回青少年読書感想文全国コンクール」では、小学5・6年生向けの課題図書にもなっています。
<図書館職員さんのおすすめポイント> 「東海道品川宿など江戸時代の雰囲気が感じられるだけでなく、旅の良さを見出すことができる一冊。ムツキと一緒に旅をして優しい気持ちになってほしいですね」
2. 『ピカ☆ンチ―LIFE IS HARD だけど HAPPY』(河原雅彦/竹書房)
アイドルグループV6のメンバーである井ノ原快彦さん原案の一作。井ノ原さんが育った品川区八潮での生活体験をもとに、俳優・脚本家・演出家の河原雅彦さんがノベライズを担当しました。2002年には「嵐」のメンバー全員が出演し映画化、2004年にノベライズした作品です。
ストーリーは、東京なのにまるで離れ小島のような「八塩団地」が舞台。中学校から腐れ縁の男子高校生5人組が、高校を卒業するまでを追った青春ストーリーです。好きな女の子と遊ぶときは団地から離れた場所で会う、屋形船で遊ぶ大人を嫌うあまり沈没させるなど、漫画チックで荒唐無稽ながら思春期らしいモヤモヤと妄想をこじらせまくった爆笑エピソードが詰まっています。
<図書館職員さんのおすすめポイント> 「かなり自虐的かつオーバーに描かれていますが、団地の世界観が魅力的な作品です。品川区八潮の風景が想像できる場面も多く、実際に八潮を歩いた時には『あ、ピカ☆ンチに出てきたあの場面は、この場所かな』と探してみるのも面白いですよ」
3. 『戸越銀座でつかまえて』(星野博美/朝日新聞出版)
旅行記などの作品を生み出してきた写真家・ノンフィクション作家の星野博美さんによる週刊朝日での連載をまとめたエッセイ本。
フリーランスとして真の「フリー」を求め生きてきた星野さんが「自由」に生きることから逃げ、かつて町工場を営んでいた戸越銀座の実家へ戻ってきた生活が描かれています。商店街の人々との人間関係や子どもの頃のエピソード、そして長年連れ添った愛猫との別れなどを、冷静な視点とユーモアあふれる文体で書き上げました。
また、同じ著者による『コンニャク屋漂流記』(文藝春秋)もおすすめ。祖父の代から戸越銀座で町工場を営んでいた星野家のルーツを辿る一冊。星野さんの先祖は、江戸時代に紀州から房総半島へ渡った漁師で、なぜか「コンニャク屋」という屋号を使っていたそう。祖父の手記を手掛かりに、和歌山県、千葉県、五反田、そして戸越銀座に至るまでの家族の歴史を紐解いていきます。
<図書館職員さんのおすすめポイント> 「戸越銀座は品川区内でも昭和の雰囲気が残る味わい深い商店街。外出自粛が落ち着いたら、ぜひ訪れてほしい場所です。五反田・武蔵小山など、地元民ならではの行動範囲も興味深いポイント。星野さんらしいどこか達観した冷静な本音、それとは裏腹のナイーブな作家性が垣間見られるのが読みどころです」
4. 『さくら舞うー立場茶屋おりき』(今井絵美子/角川春樹事務所)
時代小説「立場茶屋おりき」は25作続くシリーズもので、『さくら舞う』はシリーズ第1作目にあたります。「第4回歴史時代作家クラブ賞」で、シリーズ賞を受賞しました。
物語の舞台は、江戸時代の品川宿門前町です。主人公は、茶屋と旅籠(はたご)を兼ねた立場茶屋(たてばちゃや)で二代目女将を担うおりき。この茶屋は、品川寺(ほんせんじ)の斜向かいにあるという設定です。客や住民たちの起こす事件に巻き込まれたおりきが、人情味あふれる解決策を次々に見出していきます。
当時の東海道品川宿の裏手からは海岸線が望めました。そのような描写から時代の移り変わりに思いを馳せることができるのもポイントです。
<図書館職員さんのおすすめポイント> 「キャラクターがイキイキとしているのが魅力の一冊。最初は意地が悪そうな感じの登場人物が実は心のやさしい、粋な人だったのが心にぐっと迫りました。また、物語に出てくる料理が、どれもおいしそうなのも魅力の一つです」
5. 『品川区あるある』(東京23区あるある研究所/TOブックス)
品川区の「区民性」「フード」「土地柄」「育ち」「交通」などのちょっとした「あるあるネタ」が、180個詰まった一冊。軽い気持ちで読めるので、家族との話題作りや息抜きにもぴったりです。
「戸越銀座コロッケ、なんと20種」「ゴジラは、よく品川で暴れるよね」など、クスっと笑えるエピソードが満載。喫茶店やメガ盛りで有名な名店などのおいしそうなメニューも載っているので、街歩きに出かけるのが待ち遠しく感じられます。
<図書館職員さんのおすすめポイント> 「ディープな品川ファンには物足りないかもしれませんが、品川についてこれから詳しくなりたい人にはおススメの一冊です」
6. ステイホーム期間は、読書で旅気分を。
品川にゆかりのある本5冊をご紹介しました。
本で読んだ場所を「外出自粛が落ち着いたら行ってみたいところリスト」に書き加えるのもいいかもしませんね。季節によって変わる街の景色、グルメやお土産など、街歩きの魅力はいろいろ。
自宅で過ごす時間が長くなった今のうちに、未来の楽しみをたくさん用意しておきましょう!
※2020年4月30日現在、品川区立図書館・大崎駅西口図書館取次施設は全館臨時休業中です。詳細は、品川区立図書館サイトよりご確認ください。
(取材:ゆきどっぐ 編集:鬼頭佳代/ノオト)