フォトグラファー渡邉茂樹「しながわ鉄道100景」前編
今回の特集は、品川区在住のカメラマン渡邉茂樹さんによる「しながわ鉄道100景」前編をお届けします。(2021.2.28公開、2022.5.23更新)
品川区は私鉄、JRそして車両基地と鉄道をテーマにするには事欠かない場所です。品川区を見渡すと海、山そして谷と地形に高低差があります。その中を時に縫うように走る鉄道の風景を眺めるのは、身近な観光となりうるのではないでしょうか。大きな高低差を走ることのない鉄道は、低地では高いところを、高台では低い場所を走ります。鉄道は地図上ではなく、私たちの目前に現れる等高線でもあるのです。
戸越銀座フォトカノンでは、昨年に引き続き、2022年6月10日(金)~22日(水)まで私の写真展「しながわ鉄道100景」が開かれています。そのテーマは、「鉄道から地形と土木と人の営みを旅する」です。
この記事では今回展示する写真をご紹介しながら、品川区内を走る各鉄道の沿線を旅していきます。
1. 「八潮の車両基地群」旅の始まりは圧巻の新幹線と広大な貨物ターミナル
最初に取り上げるのは八潮地区です。埋立地でできたこの広い低地には3つの鉄道会社の車両基地が存在します。東海道新幹線のJR東海、JR貨物、りんかい線の東京臨海鉄道の車両基地です。
新幹線が並ぶ大井車両基地は、国道357号沿いからも見える風景なのでご存知の方も多いと思います。しかし、私がこの八潮地区の車両基地で一番素晴らしいと思うのはJR貨物の東京貨物ターミナル駅です。
生き物のように広がり、収束していく線路の風景は、下町的な品川区のイメージとは全く異なる広大な平原を思わせる風景です。
りんかい線の八潮車両基地は、都会的なイメージのあるりんかい線が、隣の公園の緑と青空の中で、一息ついているように見える場所です。 これら3つの車両基地を全て眺めることのできる大井中央陸橋は品川区内に存在する数多くの跨線橋の中でも、特別な存在だと感じています。
2. 「東京モノレール」運河沿いの小さな旅
次に八潮地区を超えて西に進んで行きます。ここに現れるのは京浜運河です。品川区民にとっては、運河と言ったら京浜運河というぐらい馴染みの深い場所で、はぜ釣りを楽しんだことがある方も多いのではないでしょうか。京浜運河の風景は、モノレールとは切っても切り離せないほど一体のものです。運河に沿って走る東京モノレールは、河岸の形状に合わせて緩やかなカーブを描きます。
ここでの風景の中で私が最も好きなのは、八潮橋からみる風景です。曲線を描く運河、モノレール、首都高速と直線的な八潮団地の建築群の対比を楽しめる場所です。
3. 「京浜急行」地域をつなぐ旅、一筋の赤い線
運河からさらに西に進み、かつての海岸線に行きましょう。ここでは旧東海道と京浜急行に主役が移ります。もともとは旧東海道と並んで地上を走っていた京浜急行は高架化が進んでいます。
地面を走る京浜急行を見ることができるのは、八ツ山橋踏切と北品川駅周辺のみとなっています。
人同士のつながりが強いこのエリアは、愛する電車との距離も近いのかなという印象を受けます。しかし、このエリアの京浜急行も高架化が進むようです。この人と電車が行き交うノスタルジックな風景が見られるのも、限られた時間だけです。
旧東海道と京浜急行が走る低地から西に行くと標高はぐっと上がります。ここは武蔵野台地の東端です。旧東海道からだと顔をあげて眺める京浜急行は、台地の上から見ると眼下を走る一筋の赤い線となります。
4. 「京浜東北線と東海道線」近代から縄文へタイムスリップ
更に西へ進みます。ここに現れるのは並走して南北に走るJR京浜東北線と東海道線です。ここでは北から順番に大きく3つのエリアに分けてご紹介して行きます。
エリア1:目黒川以北
目黒川より北は御殿山と旧東海寺があった場所です。品川駅を出た何本もの線路は、御殿山と八ツ山を掘削して作られた切り通しを抜け、江戸時代には広大な敷地を誇った旧東海寺の敷地内で二手に別れます。
写真は新幹線ですが、左にまっすぐ伸びる線路が京浜東北線と東海道線の線路です。権現山公園からは、その二手に別れる様子を観ることができます。東海寺大山墓地は、この分岐を頂点にした三角形の敷地にその姿をとどめています。そこから眺める京浜東北線、区立品川学園、高層マンションはかつての東海寺の敷地であり、その広さは現在の第一京浜国道にまで続いていました。
エリア2:総合車両センター付近
線路は目黒川を越え、大井町駅へと向かって行きます。大井町駅に近づくと、右手に山手線の車両基地となっている、JR東日本東京総合車両センターが現れます。ここはかつて権現台と呼ばれた台地でしたが、車両基地建設のために掘削され、人工の盆地となりました。
基地の中にはかつての変電所も存在しています。JRの線路はその盆地の東端を走り、桜並木が並ぶ崖の上は、旧名浅間台となります。ちなみに品川区役所は、この盆地の西端にあたります。区役所の屋上から大井町方面を眺め、ここが大きな台地だった時の風景に思いを巡らせるのもいいかもしれません。
エリア3:大井町以南
大井町を過ぎ南に進むと、線路は武蔵野台地から下ってきた傾斜地と低地との境を通ります。
台地側が旧名鹿島谷、海側が旧名水神下です。
大森貝塚遺跡庭園の見晴台に立ち、かつてこの目の前に広がっていた海の風景を想像し、現在の鉄道の風景を重ね合わせると、線路の向こうの住宅地が海に見えるかもしれません。
ほどなく線路は大田区へと入ります。品川区と大田区の区境は小さな川の暗渠であり、その姿は池上通りを横切り鉄道を横切り、海の方へと消えて行きます。池上通りから鉄道まで流れるその暗渠は、わずかですが今も川の表情をとどめているように見えます。
次回の後編ではさらに西へと進み、新幹線と横須賀線、東急線、山手線の風景をご紹介していきます。
記事の後編はこちらからご覧ください。
<取材・撮影・執筆> 渡邉茂樹/フォトグラファー、通訳案内士 「東京人」「プレジデント」などの雑誌や広報誌にて「ひと」、「まち」、「食」の撮影を中心に活動。しながわ観光協会やケーブルテレビ品川などを通じて地元品川区の商店街の人々の撮影も多く行う。戸越小出身、品川区在住。 【写真展】 「しながわ鉄道100景」 2021年3月5日(金)~17日(水)戸越銀座フォトカノンにて これまでの写真展: 「戸越銀座の一人一冊」(2014年) 「戸越界隈の一人一冊 with MOP!」(2018年)
※掲載内容は、2021.2.28公開時の情報です。
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