品川区の街灯さんぽ 夜の商店街を散策
商店街を中心とした街歩きでは飲食店などに目を引かれることも多いですが、今回は散策を楽しむ新たな視点として「街灯」に注目。
当たり前にあるものとしてスルーされがちな街灯も、よく見てみると個性豊かに街の景観を彩るユニークな存在なんです。今回は街灯を観察しながら、品川区内のさまざまな商店街を歩きました。(2022.10.1)
1. 街歩きで商店街の「街灯」に注目
今回のガイド役としてお話を伺ったのは、同人誌『品川区の街灯』著者のゆきみちさん。
『品川区の街灯』は、区内の街灯や商店街の特色を写真とともに紹介する作品。ゆきみちさんが大学1年生のときに制作を始め、『路上美学』シリーズと冠してこれまでに4作品が発表されています。
街灯のどんなところを観察するの? 商店街によってそんなに違いがあるの? 今回は、ゆきみちさんに品川区内の商店街にある「お気に入りの街灯」を教えてもらいました。
2. ピンクのお花にハート型アーチ、かわいいが見つかる「荏原中延の商店街」
東急池上線・荏原中延駅前は、さまざまな商店街が集まっているエリア。
駅の南側には、都営浅草線・中延駅方面に約330メートル続く「なかのぶスキップロード(中延商店街)」のアーケードが目立ちますが、ゆきみちさんが注目するのは北側の「サンモールえばら(荏原中延東栄会商店街)」です。
ここに、本を作り始めるきっかけとなった街灯があるのだとか。
ゆきみちさん「それが、この『ピンクのお花』街灯です! すずらんでもコスモスでもなく、子どもの描く無邪気な絵のような愛らしさがありませんか?」
初めてこの街灯を見たとき、そのかわいさに感動し、以来ゆきみちさんは区内の街灯に目を向けるようになったそう。
花びらを支える金属部分の曲線にも注目です。道の左右に立つ街灯を一度に視界におさめて遠目で眺めると、ハートの形に見えてくるような……?
入り口や交差点など、商店街の全3箇所には、大きなハート型のアーチも。2つの小さなお花は、夜になると街灯として光ります。
ゆきみちさん「街灯観察の先駆者である王田土人さんという方は、商店街の入り口に立つ特徴的な街灯を『ゲー灯(ゲート+街灯)』と呼んでいます。ゲー灯はデザインが個性的なものも多いので、商店街を歩く際にまずは探してみると面白いですよ」
厳密に街灯ではありませんが、夜の散歩でチェックしたいのが昭和通り商店会のネオンサイン。レトロな雰囲気ですね!
ゆきみちさん「街灯は、装飾デザインの豊かさはもちろん、明かりの色も白やセピア系などさまざま。どんな街灯が立っているかで、小さな商店街のこだわりを発見できるのも楽しみの一つですね」
●荏原中延東栄会商店街(サンモールえばら) 住所:東京都品川区中延1丁目〜2丁目周辺 URL:https://www.facebook.com/sunmall.ebara/
●昭和通り商店会 住所:東京都品川区中延2丁目周辺
● 浪花会商店会 住所:東京都品川区東中延2丁目周辺
3. メルヘン、SF、謎多きキャラクターまで! 個性の強さはダントツ「戸越公園の商店街」
東急大井町線・戸越公園駅にやってきました。線路と交わるとごし公園通りを南北のどちらに進むかで、街灯の雰囲気ががらりと変わるエリアです。
まずは北側の「とごし公園通り商店会」へ。ユリのような形をしたかわいい街灯が並びます。
ゆきみちさん「『サンモールえばら』もそうでしたが、街灯の装飾と商店街入り口のアーチ(ゲー灯)のデザインが統一されています。濃い緑色がきれいですね!」
一方、戸越公園駅前南口商店会の「ホッ…とすとりーと」には、UFO型の街灯が出現。 宇宙船の窓からも光が覗く芸の細かさです。
さらに進むと、ゆきみちさんが「衝撃を受けた」という区内随一の個性派「ゆたか商店会」が現れます。
このゆたか通りには、付近にある大原不動尊のイメージキャラクター「Oh君」と「はらちゃま」がちょうちんを持って立つ、奇抜な街灯が立ち並びます。
よく観察してみると、「立つ向きがばらばら」「Oh君の服はそれぞれ違う」「ちょうちんを持たない方の手は、Oh君が必ずグーで、はらちゃまが必ずチョキ」「立たずに倒れている形や、道路に背中を向けている形もある」など、とにかく謎だらけの街灯。
また、ゆたか商店会は「世界一の商店街」を謳い、街灯の柱には「短距離走の世界記録保持者の名前(と身長)」「世界最大のマグロの体長」など、さまざまな「世界一」の記録が記されています。これもまた、なぜ……?
どうしても気になるので、ゆたか商店会にある美容室「AZZURRO」のオーナーで、この街灯の設置を提案したという森川優美さんにお話を聞いてみました。
「約7年前に、老朽化のため商店街の街灯を新設することになったのですが、普通のデザインではつまらない。商店街の大切なスポット・大原不動尊のキャラクターも兼ねるアイデアを公募したところ、中学3年生の女の子の作品が選ばれました」
「ポーズがそれぞれ違うのは、バリエーションを持たせたかったから。横に寝かせたポーズは、空を飛んでいるイメージです。当時は、東京オリンピックでたくさんの人が遊びにくることを見込んでいたので、『世界一の商店街』としてスポーツに関連する世界記録などを街灯の柱に掲示したんです」
「実は、Oh君とはらちゃまに、いろいろなスポーツ選手の格好をさせようという案もありました。もろもろ大変だったので、実現はしませんでしたね」
謎が多かっただけに、たくさんの真相を伺えました。でも、見れば見るほどまた別の謎が見つかりそうな街灯ですね。ぜひ足を運んでみてください!
●とごし公園通り商店会 住所:東京都品川区戸越5丁目周辺
●戸越公園駅前南口商店会(ホッ…とすとりーと) 住所:東京都品川区戸越6丁目周辺 URL:https://togoshikoen-minamiguchi.jp/
● ゆたか商店会 住所:東京都品川区豊町5丁目〜6丁目周辺
4. 不思議な形やカラフルな色合い、路地に佇む光を探そう「武蔵小山の商店街」
東急目黒線・武蔵小山駅は、高層マンションが建ち並び再開発が進むエリア。駅前に広がる「武蔵小山商店街パルム」は、昭和31(1956)年にオープンした日本初の大型アーケード街として有名です。
ただし、街灯ファンのゆきみちさんが注目するのは、駅のロータリーを挟んだ反対側にある「武蔵小山西口商店街」。この入口にそびえる街灯もまた異彩を放っていました。
ゆきみちさん「樹木のような迫力がある街灯です。通りの先には別のデザインの街灯が並んでいるので、この大きな街灯は『ゲー灯』の一つと言えますね」
パルムと垂直に交わる「武蔵小山一番通り」の街灯は、暗くなると鮮やかな色を輝かせます。
思わず写真を撮りたくなりますが、街灯をきれいに撮影するのは難しいもの。ゆきみちさんにコツを聞きました。
ゆきみちさん「自己流ですが、並んでいる街灯は『離れた位置からズーム機能を使って撮る』ようにしています。そうすると街灯の間隔が詰まって見え、1枚の写真の中に写る街灯の密度を高められます。街灯の真下に立ち、1つ先の街灯から奥をアングルに入れるようにすると、うまく収まりますよ」
●武蔵小山西口商店街 住所:東京都品川区小山3丁目周辺
●武蔵小山一番通り商栄会 住所:東京都品川区小山3丁目周辺 URL:http://1ban-dori.com/
5. おしゃれでお茶目、フォトジェニックな「旗の台の商店街」
東急大井町線と池上線が交わる旗の台駅。駅前すぐの南側「旗の台商店街」に並ぶのは、ステンドグラス風の街灯です。天使のイラストと、レトロなフォントの商店街名にも雰囲気があります。
ゆきみちさん「夜空とのコントラストを成す、鮮やかなカラーリングが魅力。ステンドグラス風のデザインを採用している街灯は、品川区内でも他にないと思います」
駅前には、ヨーロッパの街並みのような絵が描かれた街灯も。ぜひ探してみてくださいね。
一方、駅の反対側にある「旗の台東口通り商店街」では、コミカルなデザインのゲー灯が楽しめます。昼間の散策で眺めるのも楽しいですし、不思議な色味で光る夜もおすすめですよ。
ゆきみちさん「さくらももこさんの作品に出てきそうですね! 旗の台はデザインが凝っていてフォトジェニックな街灯が多い印象です」
●旗の台中央商店街 住所:東京都品川区旗の台3丁目周辺
●旗の台東口通り商店会 住所:東京都品川区旗の台2丁目周辺 URL:https://www.hatanodai-higashiguchi.com/
6. 一本道を歩きながら街灯の変化を楽しむ「三間通り」
最後にご紹介するのは、旗の台エリアと大井町エリアを約3キロにわたって東西に結ぶ、三間通り。店だけでなく住宅も多い通りですが、長い距離にわたって様々な商店街が続くため、街灯観察にはピッタリのコースなのだとか。今回は旗の台エリアから西大井駅までを歩きました。
ゆきみちさん「三間通りには別々の町会が並んでいるため、それ自体を一つの商店街ということはできません。ですが、もし『商店街群』という言い方があったなら、おそらくここは日本で最も長い商店街群では」
中原街道に接する三間通りの西端、まず大きなアーチで存在感を示すのは「旗の台稲荷通り商店会」です。
ゆきみちさん「名前の通り、大正15年に建立した稲荷神社がある商店街。あたたかい色味の街灯は行燈(あんどん)風のデザインで、キツネのプレートがついています」
ふれあいロード(旗の台五丁目商店会)では、3段の青い輪に囲われた街灯がおしゃれに夜道を照らします。
荏原町商店街の街灯は、LEDの明かりで煌々と輝きます。
ゆきみちさん「近年は街灯のLED化を進める動きもあるようで、新しい街灯だとこういうものも見かけますね」
しばらく歩いて第二京浜を越えると、三間通りのちょうど中間あたり。ここ「蛇窪通り」に並ぶのが、白い蛇が筒状の明かりをくわえる街灯です。鎌倉末期に創建されたと伝わる蛇窪神社(天祖神社)があります。
ゆきみちさん「夜道に白く蛇が浮かび上がる様子は、幻想的で美しいですね」
この付近から大井町駅の手前まで、二葉エリアが続きます。二葉地区の商店街だけでなんと7種類以上の街灯が立っているのだとか。
ゆきみちさん「このあたりの街灯は、地名にちなんで葉っぱのデザインをしているものが多くあります。2枚の葉のデザイン(二葉)は、二葉二丁目共盛会まで歩いてやっと見つけました」
街灯の明かりに目を向けて歩けば、電車の窓から漏れる光も素敵なアクセントになりますね。
ゆきみちさん「同人誌を読んでくださった方から『本の中で自分の住む街が取り上げられていたけど、こんな街灯があるなんて知らなかった』という感想をもらったことがあるんです。視界に入っているはずの街灯でも、当たり前過ぎて見逃しちゃうことが多いのかなと思います。ぜひ街灯にも意識を向けて街歩きを楽しんでみてください」
暑い季節が過ぎ、刻々と日没も早まっていく今日このごろ。秋の夜長を個性豊かな街灯とともに過ごしてはいかがでしょうか?
<三間通りの街灯散策で立ち寄った商店街> ●旗の台五丁目商店会 ●旗の台四丁目商店街 ●荏原町商店街振興組合 URL:https://ebaramachi.jp/site/ ●旗の台稲荷通り商店会 ●二葉二丁目共盛会 ●二葉三丁目進和会 ●二葉四丁目共栄会
※記事中の情報は2022年8月下旬の内容です。
(取材:小林景太、森夏紀 編集:ノオト)
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